ゲームスラボ通信

2024.03.14

ゲーミフィケーションの鍵②:欲求を生み出すOctalysis(オクタリシス)

みなさんこんにちは。テンダゲームスでコンサルタントを担当している東(ひがし)です。
前回「ゲーミフィケーションの鍵①:ユーザーが長期的に楽しめるPBL戦略」に引き続き、弊社がサービス制作に用いている【ゲーミフィケーション】について解説します。

今回の仕組みを導入することで「ユーザーが定着しない」という課題に対し、より具体的なアプローチが可能になります。まずはこちらをご覧ください。

左の要素は前回お話した、継続の基本要素「PBL」です。
そして、今回のOctalysisにより適切な欲求を与えることで、継続はさらに強固となります。

②「欲求を生み出すOctalysis」

Octalysisでは8つの方法で、人を動かす動機付けを定義しており、これらをコアドライブと呼びます。まずは、ポイントに対応する部分から見ていきましょう。

【意味】
ゲームへの没入感と深く結びついており、行動に意味を持たせることで「自分がやらねば誰がやる!」という感覚を生み出します。例えば「手に入れたキャラクターの成長は自分の責任」、「ステージを乗り越えるには、特定のキャラクターを強化する必要がある」といった思考が当てはまります。

【回避】
ボスバトルで負けることは当然ネガティブな結果と考えられますが、「負けないためにはどうすればいいか」、回避策を考える部分が該当します。
単純なレベルアップでは対応できない局面で、スキルや武器の強化を迫られる。ここでスキルや武器を強化することで、今まで勝てなかった敵に勝てるようになるプロセスを指します。

【予測不可能性】
何が起きるか分からないという好奇心や期待感を刺激する要素で、Octalysisの中でも特に重要です。
最近のソーシャルゲームに見られる「特定の確率で効果が発動する」タイプのスキルは、【予測不可能性】の良い例です。例えば、普段は20%の確率で敵の防御力を10%下げるスキルが、特定の条件下で50%の確率で80%も下げられるようになると、その変化がゲームの面白さを高めます。

この【予測不可能性】は、いつ、どんなタイミングで発生するか分からないため、「このボス戦で大きなアドバンテージを得たい」という期待を持たせ、成功時の満足感につながります。
また、ソーシャルゲームのガチャ機能も【予測不可能性】の代表的な例です。
ガチャはユーザーの欲求を刺激し、求めるキャラクターが出るかの不確定性が、ゲームへの没入感を高めます。

次はPBLの中でバッジに対応する部分になります。

【達成感】
例えば「特定の敵を倒し、勇者という称号を獲得した!」といった、ゲーム内での成果によって得られる達成感のことです。
ユーザーがゲーム内で称号を獲得した場合、その後の行動は二つの道に分かれます。一つは、勇者の更なる称号を目指してゲーム内で活動すること。もう一つは、獲得した勇者の称号をゲーム外に発信し、リーダーボード的な行動に移ることです。

【希少性】
希少な称号や異名への欲求を指し、ゲーム内外で自身のステータスやアイデンティティを高める要素となります。この要素は、ユーザーにとって最も重要な要素になることも考えられます。
例えば、強力なボスを倒した場合、倒した証となる称号や異名がなければ、単なる自己主張に収まってしまいます。
しかし、ゲーム内で特定の称号や異名が用意されており、ユーザーのプロフィールなどでそれらを示すことができる場合、ボスを倒したという事実を証明できます。それが、ボス戦に挑む大きな動機になります。

【所有】
【達成感】【希少性】に通じるところも多いのですが、「称号/異名を持つことにより更に持ちたくなる」、「自分だけが持っている」という欲求になります。
これもサービスを運営する上で非常に重要な要素となっており、「この称号を持っているから、このゲームを続けよう」「自分だけがこのキャラクター持っているから、続けよう」というゲーム継続の動機になります。

「リーダーボード」に関連する要素は、「ポイント」と「バッジ」を土台としてユーザーの更なる欲求を満たします。

【エンパワーメント】
ユーザーの創造性を以て、工夫する選択肢を与えることを指します。また、工夫した結果に対し、他者からの反応が得られる環境が更なるモチベーションへと繋がります。

【社会的影響力】
「自分はこのゲームで特別なキャラクターを持っているのだから、その事実を外部に広めたい」といった意向が、X(旧Twitter)やYouTubeなどのプラットフォームを通じて拡散されることを指します。
「リーダーボード」の要素は、「ポイント」と「バッジ」のコアドライブが確立されていることが前提であり、これらがなければ外部に広める情報は単なる自称に過ぎず、大きな【社会的影響力】を生み出すことは難しくなります。

以上の8つが、ゲーミフィケーションの根幹となるコアドライブとなります。

例えばブロックチェーンゲームの場合
ブロックチェーンゲームでも、Octalysisは効果的に活用できます。
特性上、特に「バッジ」の【希少性】と「リーダーボード」の【エンパワーメント】が、ユーザーに強く響く要素となり得ます。

一方で、ブロックチェーンゲームでは、ポイントの【予測不可能性】を抑えることが重要となる場合があります。その理由は、【予測不可能性】を従来のゲームと同様に設計すると、アプリゲームとの差別化が難しくなり、ユーザーにとって新鮮さが失われる恐れがあるからです。

ブロックチェーンゲームの主な魅力は、ユーザーが長期にわたって遊び、資産を築くことにあり、【予測不可能性】の要素が強すぎると、長期間プレイしてきたユーザーと新規参入ユーザーの差が少なくなってしまい、古参ユーザーの利益が損なわれる可能性があります。

したがって、ブロックチェーンゲームでの強みを生かすためには、【意味】や【回避・解決】を強化し、【予測不可能性】を控えめにしつつ、【希少性】と【エンパワーメント】を強調する方向でサービスの設計を進めることが望ましいと言えます。
これらのコアドライブは要件定義、仕様作成のタイミングで導入するのが最適ですが、リリース後でも抜けている部分を探り、導入することが可能です。

今回のまとめ
今回はユーザーのモチベーションを向上させる方法として、前回のPBLに対しOctalysisを適用するスキームをご紹介いたしました。単にOctalysisで定義されたコアドライブを、いま稼働しているサービスに当てはめ、動機を補うだけでもユーザーの定着に寄与するはずです。

弊社では、オンラインゲームやソーシャルゲームだけでなく、多くの人が利用するサービスに関しても、お客様に長い期間滞在してもらえるよう、ゲーミフィケーションの採用を推奨・提案しています。また、サービス開発の要件定義/仕様作成などのコンサルティングやワークショップも行っていますので、課題を抱えている運営の方や開発会社様など、お気軽にご相談ください。

次回は、現状分析に役立つフレームワーク「KEYS」を解説する予定です。

参考文献
Yu-kai Chou「Pioneer of Gamification & Behavioral Design